ミルトラの対局では、
勝負がついてからも長い間粘って指し続けることは、
あまりよい作法とされない。
敗勢の側が自ら負けを宣言するのが通例となっている。
「(このあたりが潮時だろう)」
敗北を宣言して、投了してしまおう。
アレクはそう決めた。
「ま……」
彼が口を開いたとき、
ニュイがひょいと自分の駒を動かして次の手を指した。
アレクは口を開けたまま、あっけに取られた。
彼が今勝負を切り上げようとしていたことは相手にもわかったはずだ。
「(どういうつもりだ?)」
向かいに座っている同僚にいぶかしげな目を向けると、
ニュイは軽く小首を傾げるようにして、続きを指せと手で促す。
どうやらまだ指す気らしい。
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